●大江 公樹
令和五年(二〇二三)五月二十五日
<新潮日本古典集成で読む『萬葉』秀歌百首>
我が背子を 今か今かと 出で見れば
沫雪降れり 庭もほどろに
(作者未詳/巻第十 冬雑歌 2323番歌)
朝影に 我が身はなりぬ 玉かきる
ほのかに見えて 去にし子ゆゑに
(人麻呂歌集/巻第十一 正述心緒 2394番歌)
「我が背子を」について、この歌が冬雑歌にある以上、相聞歌ではなく雪について詠んだ歌として読むべきだ、といふ契沖の考へ方を知り、『萬葉集』は歌の並び方、編纂の方針を踏まえなくてはならないといふことを、改めて考へさせられました。その上で歌を読み直してみると、庭もほどろに降つた沫雪が、最初に読んだ時以上にリアリティをもつて目の前に浮かび上がつてきました。それと同時に、その情景の味はひは、歌の前半で詠まれる、今か今かと背子を待つ心情に支へられてゐるやうに感じます。講義を経て、この歌がもつ重層性について思ふやうになりました。
「朝影に」の歌については、感慨は後半にありとする斎藤茂吉の評をご紹介頂き、歌に向き合ふあるべき姿を教へられました。
次回の講座も楽しみにしてをります。
大江 公樹 <感想> 『萬葉』秀歌百首
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