●大江 公樹
令和五年(二〇二三)七月二十日
<小林秀雄と人生を読む夕べ>
「還 暦」
(「小林秀雄全作品」第24集所収)
「科学的な見方、考え方という現代の迷信」
今回の文章、そしてご講義も、上滑りした思考ばかりをしてゐる自分に、この世の確たるものを見せて、そこへと引き戻して頂けるものでした。
今日の社会に生きてをりますと、小林先生も書かれてゐた通り、文明の進歩により平均寿命も伸び、年齢といふものが我々の手によりどうにでもなるもののやうに思へてきます。しかし「還暦」を読みますと、年齢が我々の力でどうにでもなるものではなく、「向うに在る動かせぬ物的秩序を持つた山と同じぐらゐ確實なもの」として存在してゐることを思ひ知らされます。自分の年齢に応じた生き方がどのやうなものであるのか、これを機に考へて参りたく存じます。
後半のご講義は聴いてをりますと、科学における客観性や合理性といふものが、あくまでものに接する態度の結果として出てくるものであつて、寧ろ大切なのはものに対する溌溂とした興味、関心ではないか、と考へさせられました。そして、ものに対する姿勢こそをみるべきであるといふことは、科学に限らず、小林秀雄、本居宣長の学問にもいへることではないかと思ひました。
次回のご講義も楽しみにしてをります。
大江 公樹 <感想> 「還 暦」「科学的な見方、考え方という現代の迷信」
目次