●千頭 敏史
令和五年(二〇二三)七月二十七日
<新潮日本古典集成で読む『萬葉』秀歌百首>
窓越しに 月おし照りて あしひきの
あらし吹く夜は 君をしぞ思ふ
(作者未詳/巻第十一 寄物陳思 2679番歌)
桜花 咲きかも散ると 見るまでに
誰れかもここに 見えて散り行く
(人麻呂歌集/巻第十二 羇旅発思 3129番歌)
令和五年七月二十七日には「『萬葉』秀歌百首」のご講義を賜り有難うございました。
「萬葉集」編纂者の一首一首の選択と配列を、池田塾頭は現代の映画監督が一コマ一コマの映像を最大限の効果を引き出すように厳密に取捨選択して配列しているのに例えて話され、特に巻十二の第二部編纂のドラマは印象深く拝聴致しました。
また、大伴家持が「萬葉集」全二十巻の巻十六以後巻二十までの編纂、さらには巻一に遡って「萬葉集」全体の総仕上げを担ったともお話しくださいました。
伊藤博先生は『萬葉集釋注』(集英社)に、今回の鑑賞歌である3129番歌を含む3127番歌から3130番歌の四首は「起承転結」をなしていて「解体を許さない」「一連の歌群と認められる」と記されています。
伊藤先生はこの「羇旅発思」の四首は、「巻十二冒頭の人麻呂集歌が巻第十二に採録されたのちも、『異本柿本人麻呂歌集』に取り残されていたらしい。その異本に歌聖人麻呂に関する羇旅発思の歌を発見した天平十七年段階の編者たちは、おそらく昂ぶる気持を抑えきれず、この四首を古の歌群として冒頭に仰ぐ、巻十二の第二部(旅の部)編纂を思い立つに至ったものと覚しい」と言われ、「異本人麻呂歌集」に四首を発見した編者の気持と一体となった、伊藤先生ご自身の心の昂ぶりを釋文に表されます。そして、今回のご講義の熱量からは、「新潮日本古典集成」の「萬葉集」の編集に十五年にわたって携わられた池田塾頭の心の昂ぶりもが伝わってきました。
伊藤先生の釋文は、「それだけに、巻十二第二部の配列は、これまで以上に絶妙を極める」と続き、「萬葉集」巻十二第二部の編纂者に最大の讃辞を送られています。
この「萬葉集」の「絶妙を極める配列」をもっともっと味わうべく、これからも「『萬葉』秀歌百首」の講座で伊藤先生と池田塾頭の声に耳を傾け続けようと思っています。
千頭 敏史 <感想> 『萬葉』秀歌百首
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